その頃、ロシアのお友達は、お家で、瞬ちゃんとマーマと3人で遠足の話で盛り上がっていました。 「じゃあお弁当のおかずは、卵焼きと、たこさんウィンナと、ハンバーグと、から揚げと……あと何があればいいかしら? 瞬ちゃんは何が好き?」 瞬ちゃんと一緒に遠足に行くためになら、どんな犠牲も厭わず、どんな努力も惜しまないロシアのお友達。 ロシアのお友達のマーマも、愛する息子の恋を実らせるためになら、どんな犠牲も厭わず、どんな努力も惜しまないつもりでした。 が、瞬ちゃんがマーマにしたおねだりは、それはそれは可愛らしいものだったのです。 「マーマ。じゃあ、あの、お願いがあるんですけど」 「なあに? 遠慮しないで何でも言って?」 「おにぎりをこういう形のにして欲しいんです」 瞬ちゃんは、もみじのような手の親指と人差し指を使って、マーマに丸い長方形を作って見せました。 「あ、俵型のおにぎりね。はいはい、まかしといて♪」 そんなもの、マーマのゴールドフィンガーをもってすれば、お茶の子さいさい朝飯前。 マーマに二つ返事で引き受けてもらった瞬ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔になりました。 今までこういう時、瞬ちゃんのお弁当は、瞬ちゃんのお兄さんが作ってくれていました。 お兄さんが不器用ながらも愛情のこもったお弁当を作ってくれることに、瞬ちゃんはいつも感謝していましたし、そのお弁当も大好きでした。 けれど。 遠足や運動会の時、瞬ちゃんのクラスのお友達は、いつも三角や俵型のおにぎりがから〜☆ と並んだ、とっても可愛いお弁当を食べていて、瞬ちゃんはずっと、クラスのお友達が食べている綺麗でカラフルなお弁当に憧れていたのです。 なにしろ、瞬ちゃんのお兄さんが、その大きくて無骨な手で作るおにぎりは、恐ろしくダイナミックかつ超個性的なものでしたからね。 今回は、瞬ちゃんのお兄さんが出張中で瞬ちゃんのお弁当を作れないので、マーマが瞬ちゃんのお弁当作りを請け負っていたのです。 「ありがとうございます!」 とっても嬉しそうに、ほんわり笑ってみせる瞬ちゃんに、マーマの母性本能は全開状態、まさにフルスロットルです。 (瞬ちゃんみたいに可愛らしい子に目をつけるなんて、うちの氷河も見る目があるわ。2人の思い出をまた一つ増やすのよ。氷河、瞬ちゃん! いかなる妨害工作が入ろうとも、マーマと力を合わせて、きっときっと乗り越えていきましょうねっ !! ) 2日後の遠足を前に、マーマの小宇宙はめらめらと燃えていました。 |