「瞬、ホテルをとってある。いい加減に……」

瞬の我儘に付き合うのは氷河の趣味である。
瞬に逆らえない自分を情けないと思ったことはない。
それは、いつも当然のことであり、氷河にとっては楽しみでもあった。
瞬にはそれだけの愛と献身を受ける価値と権利があることを、瞬に出会った瞬間に、氷河は既に知っていたのだ。

が、きいてやれる我儘も、瞬の害にならないのなら、という条件がつく。
夜の砂漠は、昼の熱砂が嘘のように冷えてきていた。

「瞬、体調が狂うぞ」

「ゼノビアがなぜ大国ローマに逆らったか、氷河、知ってる?」
氷河の忠告を無視する格好で、瞬は彼の世話人に尋ねてきた。

「……俺はゼノビアじゃないからな。野望、野心――女の中にも、そんなものがあるんだろう」 

「“あなた”を失ったからだよ。ここに来て思い出した」


やっと氷河のいる方を振り向いた瞬は、これまでの無視を忘れたかのように、氷河の腕に甘え、しなだれかかってきた。






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