昼間、熱砂のパルミラを訪ねる無謀は、スケジュールの過密な日本人観光客でも二の足を踏む。

翌日の午後を、氷河と瞬は、十数世紀ぶりに巡り合ったパルミラの王と女王のように、寝台を出ずに過ごした。
どれほど求め与え合っても、砂が水を吸い込んでいくように満ち足りる気がしない。

そんな午後を過ごして、やっと訪れた黄昏に、瞬と氷河は再び、パルミラの廃墟の前に立ったのである。

「独占欲の強い夫の我儘に従って、あげく、ローマ軍に囚われ、黄金の鎖で繋がれて、ローマ市民の前でさらしものか。哀れな話だ……」

「哀れ?」


あのシャンソンが、また響いている。


   世界の果てまで私は行く あなたがそれを望むなら
   輝く宝を盗んでも来る あなたがそれを望むなら
   祖国や友を裏切りもしよう あなたがそれを望むなら










パルミラ。
死んだ街に不似合いな、激しく燃え盛る愛の歌。
違う。
この歌は、死んだ恋人を想って嘆く女の歌だった。






【next】