「ふん」

氷河が、不機嫌そうに僕を見てる。
僕が愚図っているように見えて、苛立ち始めているのかもしれない。

急がなくちゃ。
氷河を怒らせたら、いつもよりひどいことをされるかもしれない。
いつもより恥ずかしいことをさせられるかもしれない。

ああ、でも――!

どうして、僕はこんなことをしなきゃならないんだろう。
こんな冷たい目をした"仲間"に、どうして僕自身をさらけだし、彼の加える暴力に耐えなきゃならないんだろう。

嫌だ。
嫌なのに……!


「服も満足に脱げないのか? 幼稚園児以下だな」

だって、嫌なんだもの。

「それとも、俺に脱がせてほしいのか」

氷河が近付いてくる。
あの冷たい視線を、僕に絡めたまま。

嫌だ。
僕に触れないで……!

「仕様がないな」

嫌だ、触らないで!


「い…今すぐ……自分でちゃんと……」
僕は必死の思いで、渇いた喉から声を絞り出した。

氷河が僕に触れる前に。
僕は、やっとボタンを外し終わった。

僕の目の前で、ぎこちなく動く僕の指を凝視していた氷河は、それ以上我慢できなくなったらしく、僕の腕を捩じるようにして掴みあげた。
「俺を焦らすとは、おまえも偉くなったもんだな」

そんな!
僕は一生懸命―― 一生懸命、氷河を怒らすまいとして頑張ったのに。

でも、氷河がそんな言い訳を聞いてくれるはずがない。
氷河は、僕がボタン一つ外すほどの時間もかけずに、僕の身に着けていたものを全部剥ぎ取ってしまった。

僕の裸身を、氷河が見ている。
あの目で。
あの冷たい目、ぞっとするような熱い目で――。

氷河の視線にさらされて気が遠くなりかけた僕の身体を、氷河がベッドに薙ぎ倒す。

「あ…!」

「さて、今夜はどうしてやろうか」

ベッドの脇に立ち、氷河は、酷薄そうな笑みを僕に向けた。

僕は身体を起こして、少しずつ――氷河に気取られないように少しずつ――後ずさった。

でも、そんなの無意味だ。
こんな狭いところで逃げたって。

どうして、僕は、この部屋から逃げ出そうとしないんだろう?

また、氷河に嬲られるだけなのに。
ここから逃げ出さない限り、また、氷河にあの忌まわしいことをされるだけなのに。

そして、どうして、氷河は僕にあんなことを繰り返すんだろう。
それは無意味――無駄なことなのに。

僕に何度あんなことをしたって、僕は汚れないのに。
そう決まっているのに。

僕が氷河を睨みつけると、氷河は皮肉な微笑を返してよこした。

「おまえは抵抗する必要などないだろう。何をされたって、おまえは綺麗なままなんだから」

そうだよ。
知っているのなら、氷河こそやめるべきだ。

無駄なこと。
無意味なこと。
僕は汚れない。
僕には罪がない。


僕は――。






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