九十九夜は、あっという間に過ぎていった。 百夜目は、そして、雪の夜だった。 やっと、このゲームのエンディングを迎えられるのだと思えば、肩に降り積もる雪も心地良く感じられる。 御簾の向こうにいるラスボスに、氷河は雪の庭から声をかけた。 「参りましたよ、小町。今夜で百夜だ。私の望みを叶えてくださるのでしょう」 「あ……あれはただの戯れ言、本気にされては困ります」 「戯れ言でも約束は約束。守ってもらわねば」 「その気のない者に無理強いなど、貴人のすることとも思えません」 「…………」 まあ、予想通りの答えだった。 小町が百夜通いを言い出したのは、そもそも氷河に"小町"を諦めさせるためだったのだ。 そして、氷河は、こういうことになるだろうことを見越した上で、百夜通いを続けてきたのである。 ここで引くつもりはなかった。 北階を一歩で登り、御簾に手を掛けて、氷河は小町のいる部屋の中に入ろうとした。 「入ってこないで!」 小町の鋭い声の訳を、理解できないものが、その場にひとりだけいた。 にゃあ――。 猫の氷河には、自分の飼い主がどうして氷河を拒むのか、その訳が全く理解できなかったらしい。 「あ、氷河…!」 飼い主よりよほど正直者の氷河が、その腕をすり抜け、御簾の下をくぐって、彼のエサの運び人の足許にじゃれついていく。 正直者を抱きかかえて、氷河は、御簾の陰で震えている氷河の飼い主の名を呼んだ。 「瞬」 返事はない。 「瞬だろう、そこにいるのは」 それでも、返事はなかった。 「俺が通ったのは、小町の許じゃなく、おまえのいるところだ。俺を中に入れてくれ、ここは寒い」 「氷河……」 呟きのようなその声を、氷河は許諾の言葉と受け取った。 深草少将をその名で呼ぶ人間は、この世に一人しかいないのだから。 |