「アイザックは俺の死を望んでいた。奴に俺が俺の命を投げ出せば、少なくとも俺は奴を満足させてやることが――」

「それは駄目。僕が許さない」
「じゃあ、どうすればいい」


一瞬、切なげな眼差しを氷河の瞼の傷に投げてから、瞬はベッドに腰をおろしている氷河の前に戻ってきた。

「氷河は、僕を呼んでくれればよかったの。僕が氷河の代わりに、僕の目を彼に差し出した」

「そんなことになったら……俺が苦しい」
「いい勉強になるでしょ。自分を傷付けることの愚かさを、氷河は身をもって知るんだ」
「俺は愚かだったのか」

そんなことにも気付いていなかったのかと言いたげに、瞬の声が荒ぶる。

「そうだよ。当然でしょ! 眼だの命だの、どうせ捧げるのなら、僕に捧げればよかったのに! そしたら、僕がどれだけ感激して、どれだけ氷河を愛するようになったかわかる !?   なのに、氷河ってば、何の得にもならないことのために、こんなことして……!」

瞬の激昂に、氷河は折れるしかなかった。

「……悪かった」

反駁の言葉も見付けられない。
瞬の言う通りだった。
それを、瞬に捧げていたならば、少なくとも氷河は、今こうして瞬に怒鳴られることもなかったのだ。

「ほんとにそう思ってる?」
「思っている。おまえはいつも利口、俺はいつも馬鹿だ」

「…………」

すっかり意気消沈してしまった駄々っ子に、瞬は肩で嘆息した。

「……拗ねないで。僕は、そんなふうに馬鹿な氷河が好きなんだから、きっと、もっと愚かなんだよ」

瞬の細い指が、口付けるように、氷河の瞼の傷に触れる。

飴と鞭の使い手は、氷河の好物の甘い蜜を、やっとその唇と指先とに滴らせ始めた。






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