苦虫を噛みつぶしたような顔になった氷河を押しのけて、沙織は瞬たちに一冊のパンフレットを手渡した。
「まあぁぁ、ほんとに嬉しいわ! じゃあ、星矢、瞬、紫龍、これがグラード財団で経営しているグラード学園高校のパンフレットよ。読んでおいてね。来春から――そうね、瞬と星矢は1年、紫龍は3年生に編入ってことでいいかしら。2ヶ月あれば、十分な準備もできるでしょう」

沙織に負けてはいられないとはがりに、瞬の手に渡ったパンフレットを横から奪い取って、氷河も必死の説得開始である。
「瞬、冷静になって考えてみろ。俺たちが今更ガッコーなんてとこに行って、何の役に立つと思うんだ !? 時間てものは無限にあるわけじゃないんだぞ。そんなものに費やすくらいなら、他にもっと有意義な時間の使い道があるはずだろうが!」

『たとえば、俺とナニかするとか』
――と口にしそうになって、氷河は慌ててそれを喉の奥に押しやった。
学校に通うことの代替案にそれを提示して、瞬に品性を疑われるわけにはいかない。


「行きたい」
「…………」
瞬は、沙織とは違って、学校生活の意義も意味もくどく申し立てたりはしない。
それ故に、氷河もうまい説得の言葉が出てこなかった。

「氷河も行こうよ。氷河には高校の授業なんて退屈かもしれないけど、きっと楽しいと思うよ。……人を傷付けたりするのより、ずっと――」

「…………」
瞬が、そう言っているのである。切なげな目をして。
氷河としては、一も二もなく頷いて、『ガッコーだろーが、日光だろーが、どこまででも一緒に行かせていただきます!』と言ってしまいたかった。

言っていただろう。
そこに、瞬の他に誰の姿もなかったなら。

しかし、そこには、氷河の動向を固唾を飲んで見守る、瞬ではない人間が約3名もいたのである。
氷河は意地を張って見せるしかなかった。
「ふん。ちゃんちゃらおかしい。この俺が、馬鹿なガキ共に混じって、スズメの学校ごっこなぞしていられるか!」

「氷河……」
瞬ではない人間に向けて氷河が口にした言葉に、瞬が悲しそうな顔をする。
氷河は、男の沽券などにこだわっている自分自身に苛立ち始めていた。






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