「瞬、氷河のことは放っておきましょう。気が進まない者を無理に学校に連れていっても、学園生活は楽しいものにはならないわ。それより、このパンフ見て。ほら、ここは寮の設備も素晴らしいのよ」

沙織の聞き捨てならないセリフが、それでなくても過敏になっていた氷河の神経を、逆撫でした上に蹴りまで入れてくる。

「寮だとっ !? ここから通うんじゃないのかっ !? 」
「あら、言ってなかった? グラード学園高校は全寮制の男子校なのよ」

(ぜ…全寮制の男子校……)

危険である。
どう考えても危険である。
全寮制の男子校――それは、瞬のようなタイプの生徒には、想像を絶するほどの危険に満ちた伏魔殿以外の何物でもない。

が、それよりも、何よりも、ともかくも。
氷河は、瞬と離れたくなかった。
毎日瞬の顔を見ることのできない生活など、ミルクの入っていないミルクティー、卵の入っていないプリン、牛肉の入っていない牛丼と同じである。

しかし、学校には行きたくない。
この矛盾の前にいったい自分はどういう態度をとるべきなのか――氷河は迷いに迷っていた。


瞬の身を守るために、ここはやはり折れるべきなのかと苦悩しつつ、氷河は、瞬から奪い取ったパンフレットに目を通してみたのである。
その小冊子には、どこぞの高級マンションと見間違えそうな寮の写真とその説明が載っていた。

そして。
その説明文を一読し、ここで自分が折れることは何の解決にもならないのだという事実を、氷河は知らされたのである。
グラード学園高校の学生寮では、生徒たちに個室が与えられない。
それどころか、生徒たちの寝起きする部屋は、2人部屋ですらない4人部屋だったのだ。

これでは、氷河が瞬と共に入寮し、うまく同室になれたとしても、他に2人の生徒が彼等の夜に割り込んでくる――ということになる。
希望者のみではなく全寮制となれば、人数の関係上それも仕方のないことなのであろうが、それにしても4人部屋とは論外である。


「氷河も行こうよ。ね?」
「それどころじゃない!」

氷河は、瞬の希望を要れつつ、2人の夜を守るための手段を講じなければならなかった。
瞬の入学・入寮まであと2ヶ月となると、時間はあまりない。

瞬の誘いの言葉を、1秒の間もおかずに拒絶して、氷河はラウンジを飛び出した。






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