「氷河、これはいったい何なの !? 」 「? サインでも欲しいんですか、沙織さん」 ラッキョ本をテーブルに叩きつけて詰問してきた沙織に、氷河は実に白々しく首をかしげてみせた。 「そんなものはいりません! 私は、どうしてこれがグラード・マガジンズ社から出ているのかと聞いているのよ!」 「ああ、それは、これを出版するのはグラード財団総帥の命令だと言って、俺がグラード・マガジンズに原稿を持ち込んだからだろうな」 「…………」 氷河が、しれっとした顔で、グラード財団総帥に答える。 「栄養学の『え』の字も知らない俺が、3日もかけて書いた原稿だ。総帥の至上命令というので、グラード・マガジンズは定期刊行の雑誌の印刷も後回しにして、超特急で発売にまで漕ぎつけたんだ。あとで、金一封でも出してやることだな。今も、増刷に次ぐ増刷で、悲鳴をあげているようだし」 呆れて言葉もない沙織に、氷河は至極にこやかに――しかし、どこか挑戦的な表情で――静かに断言した。 「この調子なら、200万部は行くだろう」 |