「愛だの恋だのが、食い物よりどれほど大事なのかは、今もわからないんだが」 氷河は相変わらず、そんなことを言っているが、瞬はもうそれで怒ったりすることはなくなった。 氷河は、その後に必ず、真剣そのものの目をして、 「俺は、どんなに飢えている時でも、最後のアンパンはおまえにやる」 と続けるのだ。 「おまえを失うくらいなら飢えて死んだ方がましだ」 氷河にとって、アンパンよりも大事な存在。 それは、彼が生きていくのに、非常に、とても、並大抵ではなく、必要なものだということなのだ。 「じゃあ、その時は半分こしようね」 瞬が微笑って、そう告げると、氷河はこれまた真剣な目をして、頷いてみせる。 「そうして、二人で生き延びような」 人はパンのみにて生くるに非ず。 パンを求める心よりももっと強く切実なものに、人は生かされているのである。 Fin.
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