「俺は――」

何か――を、言葉にしかけて、氷河はその言葉を飲み込んだ。

氷河が求めていたもの。
以前は、それは、瞬に愛されることであり、瞬に守られることであり、瞬を守っている彼自身の姿だった。

だが、今は――。
長い距離と時間を経て、今、自分が求めているものは。

瞬に愛されることでも、瞬に守られている自分でもなく、瞬を守っている自分でもない。


春の眩しさに目が眩みそうになって、氷河は目を閉じた。
だが、目を閉じても、そこに、氷河が欲していたものの姿が浮かぶ。

本当は、春の訪れを待ち焦がれていた自分に、氷河はとうの昔に気付いていた。
同情でも罪悪感でも負い目でもなく、春が冬を抱きとめるのは自然なのだというように、瞬が自分を受け入れてくれることも、瞬と離れているうちにわかってしまっていたのだ。




まだ少し冬の凛とした寒さを残した淡い青色の空のどこかに、再び、ひばりの鳴き声が高く響く。


春の兆しが、冬を抱きしめ、包み込み、堅く凍りついているようだった根雪を消していく。
春に抱きしめられれば自分の時が終わることを知りながら、それが全ての始まりなのだと知っている冬は、いつも春に口付けられる時を待っているのだ。






Fin.






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