バビロンの架空恋愛







「実は…」
紫龍の口調は重々しかった。


「――タイムマシンができてしまったんだ」


「え?」
「なに!?」
瞬と氷河が反射的に、かつ、ほとんど同時に、驚きの声をあげる。

瞬より少しだけ早く紫龍の言葉の意味を――言葉の意味だけを――理解した氷河は、嫌そうな顔で紫龍を見た。
「…それは、筒井康隆風ギャグの一種か?」

氷河は当然のことながら、『ああ、もちろんギャグだ』という紫龍の返事を期待していたのである。
氷河のそんな期待を、だが、紫龍はあっさりと裏切ってくれた。

「世紀の大発明をギャグにしないでほしいな。タイムマシンはタイムマシンだ。で? いつに行きたい?」
紫龍はすっかりその気である。

彼がわざわざ瞬と自分とを、普段使っていない城戸邸パーティ用ホールまで呼びつけたのは、つまり自分たちを実験台にするためだったのだと、氷河は遅ればせながら悟った。

「俺は過去にも未来にも興味はない。俺が興味あるのは今現在この時だけだ」
そんな得体の知れない――しかも、紫龍の発明した――モノの実験台にされて命を失うようなことは、氷河は御免こうむりたかった。
どうせ命をかけるのなら、もっと有意義なものにかけたいと氷河は思い、思ってから、彼はちらりと瞬を横目で見た。

この馬鹿げた事態にあきれかえっているだろうと思っていた瞬は、意外や真顔で紫龍の横にある不気味な入れ物を見詰めている。

それは電話ボックスほどの大きさの白い箱で、外から見ている分には、巨大で堅い豆腐のようだった。
氷河の頭の中でイメージされるタイムマシンとは、かーなーりー様子が異なる。
氷河には、タイムマシンといえば某米国映画のように車両型――というイメージがあった。
あるいは、某邦画のように、人間自身に時間移動の能力が備わる――というパターンだろうか。

いずれにしても、巨大な豆腐に乗ってタイムトラベルに興じる趣味など、氷河にはなかった。
なかったのだが。

――運命とは意地悪なものである。






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