彼は本当に無愛想だった。

でも、自分のことも、自分の周囲のことも、記憶をすっかり失ってしまったら、誰だってそうなるんじゃないだろうか。
心許なくて、心細くて、誰かに頼りたいのに、誰を信用していいのかもわからなかったら、猜疑心だって生まれてくるだろう。
人と、すぐに打ち解けられないのも当然のことだ。

こんなに大きな図体をしてはいても、彼は生まれたばかりの子供とおんなじなんだと思う。
これから、いろんな人と出会って、いろんなものに触れて、信じられる人と愛せるものを見つけていく。

きっとそうなんだ。

だから、僕は、小さな子供に接するような気持ちで、彼と付き合っていくことにした。


氷河は、空室になっていた僕の部屋の隣りで寝起きすることになった。






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