“ささやか”としか言いようのない瞬のアパートの前で、瞬を車から降ろすと、氷河は、瞬が口にしかけた礼の言葉を遮った。 「090-12*4-43*1。覚えたか?」 「はい?」 「毎晩、10時に電話をよこせ。現状報告だ。よこさなかったら、俺は、君のことが心配で、ここに押しかけてきてしまいそうだ」 「あの……」 「愚痴でも相談でも聞いてやるから」 瞬の瞳がじわりと潤みかける。 瞬は、本当に不安だったのだろう。 努力ではどうにもならないことに、生まれて初めてぶつかって。 「……ありがとうございます……」 深々とお辞儀を返してよこす瞬に、氷河は少々困惑の気味のある笑みを口許に刻んだ。 瞬の人を疑う気配もない馬鹿丁寧さに困惑しているのか、すっかり“親切ないい人”になってしまっている自分に困惑しているのかは、氷河自身にもわからなかった。 |