瞬からの電話は、最初のうちは、相変わらずうまくいかない就職活動の報告ばかりだった。
だが、そのうちに、瞬が氷河に語るのは、面接の不首尾の報告だけではなく、学校での出来事や、ちょっとした相談事や趣味の話題にまで広がっていった。

瞬と氷河は、毎晩電話で話をし、時には会って食事を一緒にするようにもなった。
1人暮らしで生活を共にする家族のない瞬は、誰かと一緒にいられるということ自体が嬉しくてならないらしく、時間も自由になったので、氷河の部屋に泊まっていくことも多くなり──氷河が瞬と寝ることになるのに、さほどの時間はかからなかった。


氷河は、瞬の不安につけ込んだつもりはなかった。
むしろ、すがってくる瞬を放っておくことができなくて、気がついた時には抱きしめてしまっていたのだ。

だが、後悔もなかった。
瞬は可愛かったし、それは自然なことにも思えていたのだ。
氷河には。

2人で過ごした夜の明けた朝、瞬が、
「ごめんなさい、ごめんなさい。僕、こんなつもりじゃなかったんです。優しくしてもらえて、安心して、つい甘えちゃったの。嫌なこと忘れてしまいたくて、氷河といると忘れられたから……。ごめんなさい……!」
──と、涙ながらに謝ってくるまでは。


真面目に勉強だけしてきたらしい瞬は、女も知らないふうだった。
それを奪われておきながら、奪った男に謝ってくる。

責任をとれと言われる方がまだしも、である。


瞬の謝罪で、氷河は、その事実を苦く認めないわけにはいかなかった。

「……瞬」
「はい」
「おまえが俺にそうやって謝るのは、おまえが俺を好きなわけではないからか?」

「え?」
「自分の不安を解消するために、俺を利用しただけだからか?」

「…………」

氷河に尋ねられた瞬は、一瞬、感情の全てを失ってしまったように、顔を蒼白にした。
その言葉の意味を理解した途端に、瞬の瞳からは涙も失われていた。






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