結局、瞬は氷河たちの会社に落ち着くことになった。

少数精鋭で有能な代表取締役たちがあげる膨大な収益を社会に還元させるべく、社内に福祉活動部門を作ろうと、瞬は、3人の代表取締役たちの説得にいそしんでいる。

「──僕、就職活動があんまりうまくいかないんで、どうかしてたんですね。僕は兄さんの弟で、紫龍の後輩で、星矢の友達で……。名刺に書けるような肩書きなんかなくたって、自分が消えてしまうわけじゃないのに、自分が何者なのかなんて変なことで不安になって……」

誤解が解けて、瞬の好意を信じられるようになった氷河は、毎日充実したオフィスラブを堪能できることになった。


「おまえは、一輝の弟で、紫龍の後輩で、星矢の友達で──俺の何だ?」
「え?」
「俺は、おまえの何だ? おまえは俺の何なんだ?」
「あ……あの……」

瞬が、パソコンのキーボードの上に走らせていた指を止め、ぽっ☆ と頬を染める。

氷河がもう一押しと思ったところで、がつーん★ がつーん★ がつーん★ と、灰皿と電話機とブ厚いファイルが氷河の頭めがけて飛んできた。
 

「きーさーまー、ここが会社で、今が就業時間中だということがわかっていないようだな!」
「オフィスでそういう真似をするのはセクハラだぞ」
「職場の雰囲気乱しといて、俺の遅刻ごときにぶつぶつ文句言うなよな!」

無論、それは、瞬の兄と、瞬の先輩と、瞬の友人の三段攻撃である。


「貴様等〜っっ !! 俺は、仮にもこの会社の代表取締役社長だぞっ !! 」

「あみだくじで決まった社長が何を言うか!」
「肩書きが何であろうと、セクハラ男はセクハラ男だ」
「職権を乱用しようとするなんざ、男として最低だよな!」

この会社に、社長のヒラのバイトのという区別はない。


「に……兄さん、紫龍、星矢。あの……氷河にあんまり乱暴しないで……」

「む……」
「しかし……」
「けど、氷河の奴さー……」

あるのは、『愛されている者が強い』という、人類普遍不滅の法則だけである。

ぶつぶつ言いながら、それでも、瞬の兄と先輩と友人は、氷河への攻撃を中止した。




名刺に書ける肩書きは無意味であり、無力である。
氷河は、しみじみ実感していた。





Fin.







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