一期の夢


〜 みずきさんに捧ぐ 〜







『文化祭』

──という単語を最初に持ち出したのが誰だったのかを、既に氷河たちは憶えていなかった。


元はといえば、時ならぬ大暴風雨、地震、寒波、彗星落下、大洪水。
つまりは、アテナに率いられた青銅聖闘士たちの聖域殴り込みの余波を受け、毎年聖域で体育祭を開催していた聖域運動場が壊滅してしまったことが原因だった。


アスガルドでの闘い、ポセイドンとの闘い、そして、冥界の王ハーデスとの闘い。
それらを経て、ついに訪れた平和の時。

黄金聖闘士たちは、その平和の中で開催される今年の体育祭を異様に楽しみにしていたらしく、『本年度の体育祭は中止』の報に触れ、一様にがっくりしまくっていた。


「今年こそっ、100メートルダッシュで聖域記録を塗り替えるつもりだったのに〜っっ !! 」
「私は、去年の借り物競争の負けを挽回したかったのだが」
「騎馬戦で、デスマスクの野郎を殴り倒したかったっ !! 」
「二人三脚〜」
「パン食い競争〜」
「べんと〜」
「フォークダンス〜」
――等々。


なにしろ、普段は仲間内で闘うことはご法度の聖闘士業界。
しかし、仲間内にしか闘って手応えのある相手がいないとなれば、年に一度の体育祭は、彼等が“楽しんで”取り組める唯一の手加減無用バトルのチャンスであり、ストレス発散の機会でもあったのだ。






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