「おまえが邪魔だ。何もかも、おまえもいけない」

人を信じること、好きになること、仲間の大切さ、自分以外の人間のための平和の価値と意味――。
そんなものを俺に吹き込んだのはおまえ自身だぞ。
なのに、おまえがいるせいで、俺は、おまえ以外の誰も要らなくなる。

おまえが望むような俺でいようと思ったら、俺はおまえの存在を無視しなきゃならない。
おまえに余計なことを教えられ、そんなおまえに惚れた途端に、俺の中では、おまえ以外の奴等がゴミ以下のものになった。

こんな矛盾した話があるか。

俺は器用な男じゃない。
おまえにも他の奴にも価値を置けなんて言われたって、そんな七面倒なことができるはずもない。
地球上の全人類とおまえ、どちらかが危地にあったら、俺はおまえだけを守る。
おまえだけだ。

「いっそ、おまえが死んでくれたら、どんなに楽か」

その綺麗な目が永遠に閉じてくれたら――俺は、どれほど楽になれるだろう。
以前のように、誰をも無視し、努力しなくても愛されるだけのガキの頃に逆戻りすることも、俺にはできるんだ。

おまえさえ――いなかったら。



「氷河……」
瞬が、辛そうに、俺の名を口にのぼらせる。

嫌いなんじゃない。
そうじゃないんだ。

そうじゃないことくらい、察してみたらどうだ。
俺が素直で正直な男じゃないことくらい、おまえはわかっているはずだろう。

知らなかったのなら、俺がこんなに苦しんでいることを、今すぐに知れ!






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