俺は気付くのが遅すぎた。

もう少し早く、自分が瞬に惚れてしまっていることに気付いていたら、俺だって瞬に人並みに優しくしてやることもできただろう。
好きだと告げて、ガキみたいなデートの2、3回もこなして、キスだけの日を過ごして、恐がらせないように抱くためのお膳立てくらい、瞬のためにならしてやった。

だが、瞬はあまりにさりげなく、そして、いつのまにか、俺の奥深くまで入り込んできていて、気付いた時にはもう、俺の心は瞬の従属物になり果てていた。

そうなってしまったら、瞬は――瞬という存在は麻薬みたいなものだった。
切れると、その在り処を捜さずにいられない。
切れることを考えただけで――瞬が俺の側から離れていく可能性を考えただけで――俺は気が狂いそうになった。

だから、俺は、中毒から脱しようと、無駄なあがきを続けてきた。
俺を律するものが、俺以外に存在してはいけないと考えて。

自分が瞬を食い尽くすことも、自分が瞬に食い尽くされることも、あってはならないと思ったからだ。
そういう事態になる可能性を、俺はどうしても否定してしまえなかった。


これで瞬が俺を嫌ったり無視したりするようになってくれたら、むしろ気が楽だと、俺は思うことにした。
瞬が俺を憎悪してくれていたら、俺も気楽に片恋をしていられる。




俺は、衣服を身に着けた瞬を従えて、海岸を街の方へと歩きだした。

事情も言わずに、近くの海浜公園にいたカップルに携帯電話を借り、城戸邸に連絡を入れた。
電話に出たのが誰だったのか、俺は憶えていない。






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