瞬が席を外していたのは、お茶の準備をするためだったらしい。
程なく客間に戻ってきた瞬は、室内に漂う険悪な空気を感じ取ると、少々面食らったような顔をして、旧友たちに尋ねてきた。
「どうしたの?」

星矢たちの声を聞くのも不愉快だと言わんばかりに、氷河が、事の次第を瞬に告げる。
「こいつらが、おまえを吸血鬼なんじゃないかと、馬鹿げたことを言い出したんだ」

氷河の憤りには気付かぬ振りをし、お茶のカップをセンターテーブルに置きながら、瞬は小さく頷いた。
「……うん。ほんと、気味が悪いんだ。僕、自分でも時々、夜中に起きだして、人の血を吸いに通りに出てるんじゃなんかと思うことがあるよ」

「おまえにそんなことができるわけがない。毎晩、俺が捕まえていて離さないんだから」
氷河は、まるで、瞬が星矢たちと言葉を交わすのを妨げようとしているようだった。
星矢たちが瞬に何かを言うことを許さずに、さっさと瞬との会話を進めていく。

「ん……。そうなんだけどね……」
自身も氷河の隣りに腰をおろした瞬の瞳は、それでもやはり不安の色を浮かべていた。

「いいじゃないか。早く老けるより」
「だって、氷河ばっかり──紫龍も星矢も大人になっていくのに、なのに、僕はいつまでも……」

瞬は、そう言って、旧友たちを――特に、星矢を――まるで羨むような眼差しで見詰めた。
共にアテナの聖闘士として闘いに明け暮れていた頃、瞬と大して変わらない体格をしていた無鉄砲な少年の顔は、今では瞬より20センチも高いところにある。

「多分、おまえに惚れた時のままでいてほしいと願う俺の執念が、そうさせてるんだ。気にするな」
「そんなこと、できるわけが──」

氷河は、星矢たちの茶話だけでなく、瞬の反駁すら許すつもりがないらしい。
彼は、瞬の言葉をも遮った。
「おまえは本当に可愛かったから。今も可愛いままだが。いや、もっと可愛くなった」

旧友の前で平気でそんなことを言う氷河に、瞬が―― 十数年前と同じ姿、同じ瞳をした瞬が――微かに頬を上気させる。


瞬は、本当に、十数年前のままだった。






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