夏になっていた。 今年巣立った若鳥たちの高らかなさえずりが、真っ青な夏の空に響いている。 「卵――」 ひとつの季節を空しく過ごしてしまった瞬の心は、命を謳歌するような鳥たちの歌声を聞いても、沈んでいくばかりだった。 「なんで、卵なんだろうね。魂の入れ物」 「そりゃあ、卵は、命と再生の象徴だからな。鳥の卵なんかは、母親に大事に守られて温められて、そして、新しい命がこの世に生まれてくる――」 紫龍にそう言われた瞬の中に、ふと一つの考えが思い浮かんだ。 「氷河の魂が強く美しくなれるとこって、氷河のマーマのいるところなんじゃないかな」 「氷河の……? でも、夏でも冷たい海の底にいるんだろ、氷河のかーさん」 氷河の母親が命を落としたのは、この国を出ようとして乗り込んだ船が沈んだせいだった。 その場所も、この村からかなり遠く離れたところにある海だと、星矢たちは聞かされていた。 「俺が潜ってみよう」 「兄さん……」 「幸い、夏だ。水浴びがてら、遊山気分で遠出してみる」 「あ、そんなら、俺も行くー!」 星矢が、浮かれた様子で、一輝の提案に同調する。 いい加減、森の中をうろつくのにもうんざりしかけていたらしい紫龍も、その案に乗ってきた。 そういうわけで、瞬たちは、その夏の間、幾度も、氷河の母親が沈んでいるという海辺にまで出掛けていったのだが、結局、水晶の卵には辿り着けないままで、暑い季節は過ぎていった。 秋は、森の雛鳥たちの巣立った巣を探しているうちに行き、冬は、魂の卵よりも、その在り処のヒントを求めて、あの女神の住む館を探して雪山に分け入り、遭難しかけることを繰り返しているうちに終わってしまった。 氷河は、仲間たちがどんな目に合っても、失敗に落胆する姿を見ても、表情も言葉もなく――ただ、瞬の目に悲しい色に映る瞳を虚空に向けているだけだった。 彼が絶望した様子も見せないことは、瞬たちには、ある意味では救いだったかもしれない。 しかし、瞬には、それでも、氷河が悲しみ苦しんでいるように見えた。 それは、もしかしたら、瞬自身の悲哀を勝手に氷河の上に投影しているだけのことなのかもしれなかったのだけれども。 本当に天国にいかなければ、氷河の魂の入った卵を見付けることはできないのではないかと、瞬が考え始める頃、北の国には、また春が巡ってきた。 |