まもなく、約束の満月の夜はやってきた。 彼女は、1年前のあの日と同じように、どこからともなく瞬と氷河の前に姿を現した。 1年前と同じに、白いヴェールが、彼女の表情を覆い隠している。 月だけがあり、星のない春の夜の教会の庭に立つ彼女は、ほの白い光をまとっているように見えた。 「魂は見付けられなかったようだね。じゃあ、約束通りに、この子の魂はいただいていくよ。この1年間で、この子の魂は、さぞかし強く美しくなったことだろう」 彼女は、そう言って、瞬と氷河の方に白い手を伸ばしてきた。 「僕、見付けたよ」 瞬が、彼女の手を遮る。 女神は、嘲笑うように、白いヴェールを揺らした。 「嘘をお言いでない。見付けたというのなら、この子の魂の入った卵を、私の前に出してごらん」 「――魂がないはずの氷河が辛そうに見えたのは、僕の目の錯覚でも何でもなくて……きっと、僕の魂のかけらが、氷河の中に入り込んでいたからなんだ……」 瞬が、自分の考えを自分に言い聞かせるように、小さく呟く。 その呟きを聞いた白い女神の手は、虚空でぴたりと動きを止めた。 瞬は、それで、確信できたのである。 その考えに辿り着いたその日から、覚悟を決めるために研ぎ続けてきた石のナイフを、瞬は、右手できつく握りしめた。 魂は、魂の側にあるのだ。 「氷河の魂は……ここにあるんでしょう?」 その行為を怖れる気持ちが、瞬の中に全くなかったわけではない。 瞬にその勇気をくれたのは、“生きて”いる仲間たちが、長く短い4つの季節の間に、瞬に見せてくれた強さと優しさだった。 瞬は、だから、彼が石で作ったナイフを自分の胸に突き刺すことができたのである。 「僕の命の中。氷河の魂は、僕たちの――氷河を好きなみんなの命の中にあるんだ」 それだけを言って、瞬は、その場に、うずくまるように倒れていった。 もし、その答えが間違っているのなら、“生きて”いることに意味はないと、瞬は思っていた。 「返して、氷河の魂」 地に倒れ伏した瞬は、その白いヴェールの女性に向かって、短く、だが、きっぱりと、言った。 |