何かが割れる音がした。 それは、氷河の魂を守っていた卵の水晶の殻が割れた音だった。 自分の魂を取り戻した氷河が、崩れ落ちるようにして、瞬の横に両膝をつく。 言葉がないのは、魂がないからではなかった。 この1年間と、たった今。 自分のものとして感じることができずにいた、あまりにも多くの思いが、堰を切られた急流のように自分の中に戻ってきたせいで、氷河は、涙も叫びも発することができなかったのである。 氷河にできることは、ただ一つ。 彼を“生かす”ために自分の命を懸けてくれた仲間の身体を抱き起こし、抱きしめることだけだった。 ただ瞬を抱きしめて、氷河は、涙もなく痛嘆した。 自分の愚かさと弱さが、呪わしくてならなかった。 白いヴェールの向こうから、白い女神の声が聞こえてくる。 「よくわかったね。その通りだよ。魂を強くするには、強い魂の側に置き、魂を美しくするには、美しい魂に触れさせるしかない。その強さと美しさに共鳴して、人の魂は強く美しくなる」 氷河の腕の中の瞬を見詰め、彼女は抑揚のない声で、そう告げた。 彼女の声音に激したところがないのは、しかし、彼女に感情がないからではないようだった。 その声には、深みのある優しい何かが、含まれていた。 「氷河。おまえの魂は、この1年間でさぞかし傷付いたことだろうね。傷だらけになって、素晴らしく強く美しくなったことだろう。返すのは惜しいのだけど、返さないわけにはいくまい。この子は、確かに見付けだした――」 「俺の魂なんか……!」 白い女神の言葉に、氷河が噛みつく。 そんなことは、瞬の命の火が消えかけている今、彼にとってはどうでもいいことだった。 「俺の魂なんか、瞬が生きててくれないのなら、あったって無意味だっ!」 瞬の身体が、氷河の腕の中で、次第に冷たくなっていく。 氷河は、気が狂ってしまいそうだった。 「俺が馬鹿だったんだ……。一緒にいられるだけで……瞬に会えただけで、それでよかったのに……! 瞬が俺だけを見ててくれても、瞬の命がないのなら、瞬が幸せでいてくれないのなら、何の意味もない。ただ、俺が……俺が我儘だっただけなのに……!」 「他の魂と共鳴し合うことでのみ、人の魂は強く美しくなる。おまえの魂は、ずっとこの子の魂と一緒にいて――利口にもなったようだね」 白い女性の皮肉な物言いに、氷河は反駁することができなかった。 自分の愚かさと弱さが作り出したものを、氷河はこの1年間、瞬の中で、嫌になるほど見せつけられていたのだ。 |