言葉に詰まった氷河と、氷河の言葉を詰まらせた星矢と、その二人の間で対応に苦慮している瞬。 そんな仲間たちに苦笑しながら、それまで傍観者に徹していた紫龍が、脇から口をはさんでくる。 「星矢、おまえ、友だちと恋人の違いがわかっているのか」 「んー。瞬にこまごま面倒見てもらえて、それが当然みたいにふんぞりかえってるのがコイビトだろ」 「は…!」 星矢のその『恋人の定義』を聞いて、なんとか立ち直った氷河は、小馬鹿にしたように、星矢を鼻で笑ってみせた。 氷河は、それ以外にも、非常に重要な恋人の務めを果たしていたのだ。 やはり星矢はまだまだガキなのだと侮りつつ、氷河は、星矢に、“恋人”の神聖なる義務と権利についてのレクチャーを開始しようとした。 ──のだが、残念ながら、氷河は、得意満面になる出ばなを、思い切り挫かれることになってしまったのである。 「あと、夜、一緒に寝てやればいいんだろ? 別に氷河でなくてもいいじゃん。コイビトと友だちとの違いってそれくらいだよな?」 ──という、星矢の言葉によって。 「な……」 「星矢……!」 氷河が眉を吊り上げ、瞬が頬を真っ赤に染める。 星矢は、だが、仲間たちのそんな反応になど、気もとめなかった。 それどころか、星矢は、更に、高らかに、氷河たちに宣言したのである。 「よし、決めた! 俺も今日から瞬のコイビトになる。そしたら、氷河にデカい顔させずに済むもんな!」 なると言ってなれるものだと思っているところが、星矢である。 氷河は、彼を嘲笑ってみせた。 もっとも、その嘲笑は、少しばかり引きつってしまっていたが。 「星矢、貴様、何もわかってないようだな。恋人というものは、そんな手軽になれるものじゃないんだ」 「手軽になれるじゃん。氷河でもやってられるんだから」 しかし、星矢は、あくまで強気だった。 そこに、紫龍までが──多分に面白がって──同調してくる。 「確かに、オトコ同士の恋には、結婚や子供という面倒な問題も発生しないし、案外、星矢向きかもしれないな」 「紫龍!」 氷河は、無責任極まりないことを言い出した長髪の仲間を睨みつけ、星矢は、自分の味方に頷き返した。 「俺はさ、瞬といると楽しいし、なるべく長く一緒にいたい。瞬が楽しそうにしてる時は、俺も楽しいし、嬉しい。瞬が危ない目に合ってたら、助けにいくし、そのためになら、命だって懸けられる。瞬だって、そうだろ?」 「それは……そうだけど」 確かに、星矢の言う通りだった。 瞬は、真顔で尋ねてくる星矢に、頷かないわけにはいかなかった。 実際、瞬は少し混乱しかけていたのである。 氷河と星矢の違い──夜のことを抜きにすれば、瞬は、待遇や態度の上で二人に差別化を図ったことはなかった。 どちらかがより大切というわけでもなく、どちらかを優先したり、ないがしろにしたりする気にもなれない。 瞬は、氷河のためにでも、星矢のためにでも、命を懸けられる自分を知っていた。 異性の恋人なら、相手の遺伝子を残したいなどという生物学的な要素も絡んでくるのかもしれないが、瞬はそんなことは考えたこともなかったし、それは望むべくもないことでもある。 恋とは、どんなものなのだろう──? その明確な答えを、瞬は知らなかった。 恋をしているはずの、今この時にさえ。 |