結局、花火は全員でしようということになった。
紫龍や沙織までが、花火をするには少しばかり早い季節の夜の庭に繰り出してくる。

空では、それこそ消えない花火のような星が瞬いている。
その下で、星矢と瞬は、花火のセットを間に置き、頭を突き合わせるようにして、あれこれと中身を吟味し始めていた。

子供のように浮かれている二人を睨んでいる氷河に、紫龍が、探りを入れるようにわざとらしく声をかけてくる。
「機嫌が悪そうだな、氷河」
星矢はもちろん、瞬も気付いていない氷河の不機嫌の訳を、紫龍は承知していた。

恋人より察しのいい友人に、氷河は嫌そうに一瞥をくれた。
そして、星矢と瞬には聞こえない程度のボリュームで、氷河は不愉快な友人に向かって毒づいた。
「ただの友だちが、毎日サッカーをするために、友だちと寝てもいいと考えるか、普通」

それが恋でなくて何だと言うのだろう。
それこそが、星矢が氷河を本気で怒らせた理由だった。

紫龍が、薄い苦笑を浮かべる。
「気付いていないところが星矢だな。気付かせずにおけよ。その方が平和だ」
「当たり前だ」

言われなくても、氷河は、そうするつもりだった。
直情径行で一本気な星矢にそんなことを自覚され、あまつさえ星矢が瞬に迫り始めるようなことになったら、自分はともかく、瞬が困ることになる。
大切な“友だち”を傷付けないために、瞬が思い悩むだろうことは火を見るより明らかだった。

そんな事態に陥ることだけは、氷河は何が何でも避けなければならなかった。



「星矢、ねえ、この花火、しけってない? 火がつかないんだけど」
氷河の危惧と憂慮も知らず、瞬は呑気に、思い通りにできないネズミ花火に難儀している。

「瞬、おまえ、変なとこで不器用だなー」
氷河の危惧どころか、自身の恋心にさえ気付いていない星矢は、瞬に輪をかけて能天気だった。

星矢は、他のことはともかく、子供が興じるような遊戯やゲームには、妙に達者である。
瞬から受け取ったネズミ花火に火をつけると、星矢はそれを瞬の足許に放り投げた。
「わっ、急に、こっちに投げてよこさないでよ!」
「仮にも聖闘士だろ、うまくよけろよ」
「そんなこと言ったって、ネズミ花火って、予測できない方に飛ぶんだもの!」

楽しそうに花火に興じている星矢と瞬は、どこからどう見ても、同い年の仲のいい友だち同士だった。

星矢が自覚しない限り、その関係が変わることはない。
知ってしまった瞬がどうするのかは、氷河は考えたくなかった。






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