「瞬、ゲームをしないか?」
「え?」

朝食を済ませるなり、突然、妙な提案をしてきた氷河に、瞬は、一瞬驚いたように瞳を見開いた。

「簡単なクイズだ。答えがわかったら、その答えをプレゼントしてやる」
「……どーしたの、氷河、急に」

氷河は、もちろん、瞬の疑念など軽く無視した。
なぜ突然クイズなのかなどということは、この際、瑣末な問題なのである。
瞬の言葉を無視してのけた氷河は、当然のことながら、その場に居合わせて、瞬と同様に、仲間の突拍子のない提案にあっけにとられている戦友たちの存在も、綺麗に無視してのけた。
というより、紫龍や星矢は、最初から氷河の視界に入っていなかった。

一つの目標を定めた氷河は、いつもその目標に向かって一直線なのである。
彼は目標物の周囲は見えないし、見ない男だった。

「全部一文字で答えろよ。
 問1 絵画のことを一字で何と言うか。
 問2 三重県の県庁所在地はどこか。
 問3 人間の体重の約10パーセントを占める液体は何か。
 問4 生きていないことを何と言うか。
 問5 人間の身体の部位の中で、最も脳を活性化させる部分はどこか。
答えを全部つなげてできた文が答えだ。どうだ? わかるか?」

「…………」
唐突な上に強引な氷河のやり様に呆れ顔をしていた瞬は、しかし、すぐに氷河に異を唱えることを諦めて、そのクイズの答えを考え始めたのである。


ちなみに、氷河の出したクイズの答えは、

問1 絵画のことを一字で言うと、絵(え)
問2 三重県の県庁所在地は、津(つ)
問3 人間の体重の約10パーセントを占める液体は、血(ち)
問4 生きていないことは、死(し)
問5 人間の身体の部位の中で、最も脳を活性化させる部分は、手(て)

以上5文字を順に並べて、『えっちして』。

瞬がその答えを口にしたら、氷河は無論、すぐさま瞬の望み(?)を叶えてやるつもりでいた。

いたのだが――。






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