「今年の夏が終わっても、夏は来年またくるだろう」 だから自分も帰ってくると、氷河は言いたいらしい。 しかし、瞬は、氷河の楽観的な予測を受け入れる気にはなれなかった。 渋面を作った瞬の横で、氷河がふいに含み笑いを洩らす。 「何がおかしいの」 なじるような口調で、瞬は氷河に、その笑いの意味を尋ねた。 氷河が、瞬とは対照的に、ひどく軽い雰囲気の苦笑で答えてくる。 「俺を夏に例えるのもおかしな話だと思ってな。ま、渡り鳥が毎年シベリアと日本を往復しているようなもんだ」 「渡り鳥には、ちゃんと海を渡る理由があるよ……!」 だが、瞬には、氷河が海を渡る理由がわからなかった。 それがわかっていたとしても許せなかったろう。今は、おそらく。 「そうだな」 「優しくて綺麗な氷河のマーマは、もう氷河を抱きしめてくれないよ」 「…………」 それは、瞬らしくない、皮肉が勝った言葉だったかもしれない。 その言葉が、昨年の夏以前に瞬の唇から発せられたものだったなら。 今は――それは、瞬の後悔と無念を意味するものだった。 |