「シベリアにしばらく帰っているだろう? その間、当然俺はおまえに会えない。仕方なく、俺は、記憶に残ってるおまえの姿を思い出して、毎日を過ごしてるんだが――」

言いながら、氷河は、自分がその事実を笑いながら話すべきか、あるいは真顔で語るべきなのかを迷っていた。

「多分に、その姿は理想化されているんだと思う。そうだな、シベリアにいる俺にとっては、おまえは俺のただ一つの太陽だ」
結局、氷河は、言葉を大袈裟にし、真顔を保つことを選んだ。

案の定、瞬が、真面目な顔をして馬鹿げたことを言う氷河にあきれたような反応を見せる。

「まさか、理想化された僕に会いたくて、僕を置いて、シベリアなんかに行っちゃうわけじゃないよね?」

瞬は、氷河が本気でそんなことを言っているのかどうかを疑っていた。
もしそれが事実なのだとしたら、氷河は本当に馬鹿だと思う。
そして、それは、氷河が瞬自身を好きなわけではないという、受け入れ難い告白でもあった。

氷河が、瞬の憤りと不快に気付いた様子もなく、飄々と言葉を続ける。
「俺は、そんな時間を過ごして、日本に帰ってくる。おまえが、おかえりと言って、俺を迎えてくれる。その時のおまえが、理想化されてる俺の中のおまえより、いつもはるかに眩しいんだ。おまえは生きていて、そんなおまえを感じることのできる俺も生きているんだと思わせてくれる風情――とでも言うのかな。瞬、おまえ、会うたび、美人になっていってるぞ。いや、美人というのも変だな。こう、生気の輝きが増しているとでも言えばいいのか。――うまい言葉が出てこないが」

適当な言葉を見付けられない自分をもどかしく思っているのか、氷河が少し眉根を寄せる。
「白いばかりで何もない、何かを話しても誰も返事を返してくれないシベリアに行って、白い光景にうんざりして、日本に帰ってくる。日本で俺を迎えてくれるおまえは暖かくて眩しくて――そんなおまえに再会するのが快感で、シベリアに行くのが癖になった」

「…………」
氷河は完全に冗談で言っているわけではないらしかった。
むしろ半ば以上本気でそんなことを言っているらしい氷河に、瞬はしばし、ぽかんと呆けた。

ややあってから、抑揚のない声音で告げる。
「──それって、まるで、倦怠期を乗り切ろうとしている中年の夫婦が、刺激を求めて脱日常を企ててるみたい」

「…………」
身もフタもない瞬の冷評に、今度は氷河が声を失った。







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