氷河が瞬の肩を抱きしめたその時から、瞬の星座が15度近く傾いていた。 「ごめんなさい……。これは僕の我儘だってことはわかってるんだ……わかってる……」 少し落ち着いてきたらしい瞬が、小一時間前とは打って変わってしおらしく、氷河の胸の中で呟く。 瞬自身、これほど激するつもりはなかったのだろう。 いたたまれない様子で、瞬は氷河の腕の中で身体を縮こまらせていた。 氷河が、瞬の涙がとまってくれたことに気を安んじて、肩から力を抜く。 それから口許に微かな笑みを刻んで、彼は自分の脚で瞬の膝を割った。 「本当にそう思っているのなら、俺に付き合え。明日死んだらもうできないと思ったら、したくてたまらなくなった」 「ぼ……僕が言いたいのはそういうことじゃなくてね……!」 瞬の非難を、 「こういうことだろう?」 キスで遮る。 氷河の唇が離れると、瞬は心もち瞼を伏せた。 誰かに聞き咎められるのを怖れるように、小さな声で囁く。 「それは……そういうことも、ちょっとだけ混じってたけど……」 「シベリア行きはやめる」 「ほんと !? 」 氷河のその言葉を聞くなり、瞬はぱっと瞳を輝かせた。 そして、瞬は、自分から氷河の首に両腕を絡めていった。 それは、もしかしたら、氷河の決定を覆させないために意図してとった所作だったかもしれない。 「ああ」 いずれにしても氷河は、瞬の望む通りの答えを返すことしかできなかった。 |