深更に入り、虫の音は少し静まりかけていた。 瞬の部屋にやってきた当初の目的を果たすべく、氷河が、夜気の中から瞬を室内に連れ戻す。 自分の望みが叶えられることに負い目を感じているのか、氷河の下で、瞬はいつもより従順だった。 「子供の頃にね、城戸邸を抜け出して、兄さんと花火を見にいったことがあるんだ」 「そうか」 「どっかの川岸でね、遠くの空に小さく開く花火が見えて、すごく綺麗だった」 「ん……」 「氷河との夏も永遠じゃないんだよね……」 「…………」 それが最も輝かしい季節だからこそ、春の終わりより、秋の終わりより、冬の終わりより、夏という季節の終わりは、人の胸に離愁をもたらすものなのかもしれない。 「馬鹿な後悔はせずに済むように、夏が終わるまでずっとおまえの側にいる」 ふたりの夏が終わる時──それが明日なのか、あるいは数十年後なのか――それは、瞬にも氷河にもわからなかった。 ふたりにわかるのはただ、ふたりで過ごす夏が、いつかは終わりを迎えるということだけだった。 |