「ああ、そりゃ、おまえ、瞬に同情されたんだろう」
店に戻って、これまでの経緯を説明すると、紫龍はあっさりと言ってのけた。

「同情だと?」
氷河の声音に険しいものが混じったが、紫龍は、飄々としてそれを受け流した。

「瞬も、ガキの頃に両親を亡くしてるからな。親を亡くしたばかりだっていうのに、おまえに関して世間が話題にすることといったら、相続遺産額のことばかりだ。ひとごとながら傷付いてるんじゃないかと心配になったんだろう。瞬らしい」

氷河以上に、世間を斜めに見ている男がそう言い切るのだから、瞬が多額の遺産相続人に近付いてきたことの裏に浅ましい目算はないのだろう。

しかし、紫龍に突きつけられた謎の答えは、氷河にとってこの上なく不愉快なものだった。
「俺に同情だと? あの子にも親がないっていうのなら、同情されるべきは俺よりもあの子の方だろう。それがなぜ――」

「瞬には兄貴がいるからな。で、その兄貴ってのが曲者でな。自分のしていることは棚にあげまくって、瞬にだけは――」

どうやら、紫龍は、瞬の兄とも面識があるらしい。
だが、氷河はもう、この得体の知れない知り合いの話など聞いてはいなかった。


『金目当ての方がずっとましだ』
なぜか、氷河はそう思った。







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