「同情とかそんなんじゃないんです。忘れてください」
「同情でなかったら、何だと言うんだ。その理由を聞くまで、俺はおまえにつきまとうぞ!」

人通りの多い銀座の路上で、氷河は瞬の腕を掴みあげた。
通行人たちが、異様に綺麗な二人連れが公道でいさかう様子に、興味深げに視線を投げては通り過ぎていく。

氷河が、その言葉通りに、どうあっても自分を解放する気がないらしいことを見てとったらしい瞬は、氷河に腕を掴みあげられたまま、幾度も瞬きを繰り返し、当惑を隠すようにあちこちに視線を飛ばしてから、泣きそうな声で、氷河に告げた。

「あ……あなたが好きだったからです。それだけ。でも、もういいんです。僕が馬鹿でした。忘れてください」

思いがけない瞬の答えに面食らったのは氷河だった。
氷河は、ほとんど反射的に尋ね返してしまっていた。
「俺のどこが……」

自分に、多少なりと誰かを惹きつけるだけの魅力があったとしても、そんなものは金の力の足許にも及ばないと、氷河はそれまで固く信じていた。

「どこ?」
氷河に尋ね返された瞬が、氷河以上に不思議そうな顔をして、氷河の問いを復唱する。

「俺には、人に好かれるようなところは何もないぞ。金を持ってること以外」
「あなたは綺麗だし、可愛いでしょう。嫌う理由なんて、それこそどこにも――」

「か……可愛い? ど……どこがだ」
瞬が口にしたそれは、氷河が初めて聞く種類の褒め言葉(?)だった。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で尋ねた氷河の顔を見あげ、瞬が小首をかしげる。
瞬には、自分がおかしなことを言ったという意識が全くないらしかった。

「あなたは、迷子の小犬みたいな目をしています」

「…………」
氷河には、瞬の目こそがそう見えた。







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