その日から1週間だけ、氷河と瞬のオトモダチ関係は続いた。

食事やお茶を共にし、他愛のない会話を交わして、氷河と瞬は友人として同じ時間を過ごした。
瞬は、何事にも控えめで口数も少なかったが、聡明な少年ではあった。
瞬との会話は心地良いものだったし、それ以上に、瞬のまとっている空気が、氷河には快く感じられた。
自分の食事やお茶の代金を、頑として氷河に払わせてくれないことを除けば、瞬はやわらかく暖かい春の風のように優しい感触だけでできている人間だった。


『俺のオトモダチになってくれ』

自分がそんなことを言ってしまった理由に氷河が気付くまで、さほど長い時間はかからなかった。
だから、氷河と瞬のオトモダチ関係は1週間しか続かなかった。

オトモダチという関係を瞬との間に成立させてから1週間後のある日、氷河は瞬に告げてしまっていたのである。

「瞬。俺から言い出したことをこんなに早く撤回してしまうのは悪いと思うが、俺とのオトモダチ関係を解消してくれないか」

「え……?」
氷河の突然の申し出の意味を解しかねて戸惑う瞬に、氷河は、畳みかけるように訴えていた。

「格上げしてくれ。オトモダチから恋人に」
「あの……それ、どういう……?」

「早い話が、おまえと寝たいんだ」
「…………」

つまりはそういうことだった。
ほんの1週間を瞬と一緒に過ごしただけで、氷河は、自分以外の誰にも瞬を渡したくないという欲求を覚えるようになってしまっていたのである。
それは、オトモダチには抱くことのない感情だった。

「僕は、でも、あの……」
「俺が知りたいのは、おまえが俺を好きかどうかということだけだ」
「あ……」
氷河は、この上なく本気で、そして、必死だった。

「俺が嫌いか !? 」
「それは……」

氷河の本気を見てとったからこそ、瞬は、返答に困ってしまったのだったかもしれない。

「好きか嫌いか、はっきりしろ。余計な説明はいらん!」
「す……好きです……」
瞬が、半ば脅されている者のように、びくびくしながら氷河に答える。

「ほんとだな?」
「あ……」
もし、瞬の答えが、氷河の望むものと違っていたとしても、

「オトモダチの話をしてるんじゃないことはわかってるな?」
「は……はい……」
氷河は、おそらく、同じことをしてしまっていただろう。

氷河は、その日のうちに瞬を自宅に連れて行き、自室のベッドの上に瞬の身体を横たわらせていた。

瞬は、終始、見知らぬ家にさらわれてきた小猫のようにびくびくしていた。
それは、氷河の要求が性急すぎたせいだったかもしれないし、その行動が迅速に過ぎたせいだったかもしれない。
あるいは、初めて招き入れられた氷河の自宅が壮大すぎただけのことだったのかもしれない。

いずれにしても、瞬の戸惑いなど無視して、氷河は、瞬の上に自身の身体を重ねた。

無論、同性を相手にそんな行為に及ぶのは、氷河はそれが初めてのことだったのだが、それは存外上首尾に終わった。
少なくとも氷河は、瞬との交接に意想外なほどの満足を得ることができた。

なにしろ氷河は、これほど強く抑えがたい欲求にかられて、自分から誰かを求めたことが、これまで一度もなかったのである。
今、自分が組み敷いている相手が、他の誰かに同じことをされるのは耐えられないと思ったのも、氷河は、瞬とのそれが初めてだった。

怯えている分、瞬の肌は過敏になっていて、女より扱いやすかった。
多分自然なことではないその交合も、瞬は、氷河が懸念していたよりずっと素直に受け入れ、耐えてくれた。

「痛いか」
瞬の身体を、その最奥まで貫いて尋ねると、痛みに眉根を寄せながら、男どころか女も知らない肌の持ち主の唇は、思いがけない返事を氷河に返してきた。
「痛い方がいい。痛くして……もっと」

被虐趣味があるわけではないらしく、苦痛は苦痛として感じているようだったが、瞬の歓喜は、氷河に乱暴にされればされるだけ高まっていくようだった。

だから、氷河は、瞬の求めに応じてやった。
その身体を気遣いながら、気遣いを忘れて貫き続ける。

瞬の身体と声と表情は、確かにそれを悦んでいた。







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