瞬とのオトモダチ関係を解消して数週間。
瞬を組み敷き、瞬に『氷河』と名前を呼ばれ、その背に爪を立てられることにぞくぞくしながら、氷河は瞬の恋人としての日々を楽しみ続けた。

氷河の家の使用人たちは、父親がいなくなった途端に放蕩を始めた新しい主人に眉をひそめているようだったが、金で雇われている者たちの思惑など、氷河は綺麗に無視してみせた。

瞬の兄が滅多に家には戻らないという状況を幸いに、氷河はほとんど瞬を自分の家に軟禁しているようなものだった。


ある日――その前夜も、氷河は、一晩中瞬を貪り続け、昼近くに、ぐったりして動けずにいる瞬をベッドに残して、家を出た。

その頃には、瞬の毎日は、起き上がれるようなら起き上がって学校に行き、それが無理ならそのまま氷河の帰宅を待つ――ようなものになってしまっていた。
いずれにしても、瞬が氷河の家で暮らすようになってから、氷河が帰宅した時、そこに瞬の姿がなかったことは一度もなかった。

その最初の時が、最後の時になった。


その日、氷河が帰宅すると、瞬が僅かに運び入れた瞬の身のまわりのものは、氷河の部屋からすべてなくなっていた。
少しばかりの瞬の荷物を運ぶために、一度車をまわしたことのある瞬の家は、もぬけのからで、人が住んでいる気配もない。


瞬が帰ってこない初めての夜を、氷河はじりじりしながら、まんじりともせずに過ごし、そして、朝を迎えた。
微かな期待を胸に、その日瞬が出席するはずの語学教室に向かったが、瞬はそこにも姿を現さなかった。

まるで、その存在自体が最初から幻だったように――瞬は、氷河の前から姿を消してしまったのである。







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