結果だけを報告するなら、氷河と紫龍の推察通り、瞬の兄は植物人間になどなっておらず、ただ四六時中麻酔薬を投与されて、昏睡状態にさせられていただけだった。
しかるべき病院に移すと、瞬の兄はその日のうちに覚醒し、長期の麻酔薬投与による後遺症もなく、大あくびをして起き上がり、瞬を喜ばせてくれた。

瞬の兄のしていた“ヤバい”仕事は、確かにヤバい仕事ではあったが、法律に触れるようなものではなく、不法治療でその病院を起訴しようとしていた検察の調査の仕事を請け負っていただけだった。
少々手荒い方法で証拠を入手しようとして、追い詰められた医師の罠にかかってしまったものらしい。

瞬の家は、氷河の手配で、大した障害もなく悪徳医師から取り戻すことができ、もちろん瞬が大学を休学する必要もなくなった。
もっとも、瞬は、せっかく取り返したその家にほとんど帰ることがなくなり、そのことで、瞬の兄と氷河との間には激しい敵対関係が生ずることになったのだが。

だが、氷河には、それすらも喜ばしい事態でしかなかったのである。
金で動かない人間は、この世には幾らでもいるということを、瞬の兄は、氷河に如実に証明してみせてくれた。
大金を手にしておかしくなっていたのは自分の方だったのだと、氷河は今更ながらに認めることができるようになったのである。


氷河を騙しているという瞬の罪悪感は、氷河への感謝の気持ちに変貌したらしく、瞬の『痛くして』は、時を置かずに『優しくして』へと変わった。

最近、氷河は、暇さえあれば、瞬を相手に、瞬に“優しくする”練習に励んでいる。






Fin.







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