意見は出尽くした。
そして、答えは出ない。

結局、星矢と紫龍と瞬は、これまでの経験から嫌になるほど思い知らされていた結論に、いつもの通りに辿り着いただけだった。
すなわち。
氷河の意図を凡人が探ろうとすれば、それは徒労に終わる──という結論に。


「まあ、しかし、やはり妥当なのは、花言葉関連なんじゃないか? 氷河がおまえに『触れないでほしい』と思っているはずはないから、ここはどう考えても、『心を開く』の方だろう。もしかすると、氷河は、おまえに心を開いてほしいんじゃなくて、氷河の方がおまえに心を開きたいと思っているのかもしれない」
「氷河が僕に……?」

紫龍は、そろそろ、この無意味無益な討論を終わりにしたかった。
氷河当人にしかわからないことは、氷河当人に聞くしかない。
瞬を氷河の元にやるのが、最も手っ取り早い解明方法だろうと判断して、紫龍は瞬にそう言った。

氷河のエキセントリックな言動に翻弄されるあまり、瞬は気付いていないようだが、氷河が瞬を憎からず思っていることは、瞬以外の人間には周知の事実だった。
案外、氷河もいい加減に瞬に告白しようなどと、ありきたりなことを考えているのかもしれない。
そんなことを根拠もなく考えながら、紫龍は瞬をけしかけた。

「おそらく、氷河は何か悩み事を抱えているんだろう。それをおまえに聞いてほしいと思っているんだ」
「そ……そうなのかな?」

瞬は、紫龍の見解には半信半疑だった。
あの・・氷河が、そんな普通なことを考えることがあるのだろうか、と。

だが、実を言うと、瞬も、そろそろ自力で氷河の真意を探るのが面倒な気分になってきていたのである。
もし紫龍の判断が間違っていたとしても、それならそれで、氷河に正しい解釈を教えてもらえばいい。
こんなふうに、無意味な議論に時間を費やすくらいなら、たとえ不粋とののしられようと、氷河当人に確かめてみた方が、よほど迅速な事態の解明になる。
『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と、どこぞのえらい人も言っているではないか。

「うん。僕、氷河のとこ行ってみる」
瞬は、覚悟を決めて、掛けていたソファから立ち上がった。

「ああ、それがいい」
「俺たちがあれこれ考えたって、どうせ正解は氷河しか知らないんだしなー」

「そうだよね。うん、そうだよ」
瞬が、星矢と紫龍にそう言って頷き、氷河の部屋に赴いたのは、夕方の6時。

そして、次に瞬が仲間たちの前に姿を現したのは、翌朝のことだった。







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