沖田の懸念は、その翌日には、少々方向を違えて現実のものとなった。
入隊早々、局長部屋に呼び出された瞬は、苦笑する近藤の前で、身体を小さく丸めることになってしまったのである。
土方、沖田と、なぜか氷河が、その場に同席していた。

『あんなのと一緒の部屋でマトモに眠れるわけがない! 肌が白くて、寝息が甘くて、そのうち、女好きの奴等もおかしくなって、同室の者たち全員があの子を襲いかねません! どうにかしてください!』 

「──という訴えが、一番隊の隊士たちからあってなあ」
「…………」
それが自分に対処できることなら、瞬にも相応の努力ができたが、こればかりは瞬の力ではどうすることもできない。
自分の外見を変えることなど、瞬でなくてもできることではなかった。

「しかし、入隊したばかりの平隊士のために個室は用意できない。宿代を出して、外泊してもらうこともできるんだが、それも不公平と言えば不公平だ」
近藤は、どう見ても、無理に苦った表情を作っている。
彼は、内心では、笑いをこらえているようだった。
直訴してきた強者つわもの隊士たちの情けない顔を思い出していたのかもしれない。

「で、氷河の部屋はどうかと思ってさ。とりあえず、氷河は、歳さんの客分扱いになってるから、今、一部屋使ってるでしょ」
「二人きりの方が危なくないか」
「氷河は、こんな顔してるくせに、硬い男だよ。近藤さんや歳さんたちと違って、女遊びも全然しないし」
「まあ、人間全般に興味がなさそうな男ではあるな」

自分への嫌味は聞き流し、当人の前で、土方は辛辣に言ってのけた。
どうやら、近藤、土方、沖田の間で、この問題の対処方法は既に決められていたらしい。

「そういう訳で、今夜から、君は氷河の部屋で寝起きしてくれ。氷河も、それでいいな?」
「…………」

局長からの命令を聞いて、氷河は露骨に嫌そうな顔をした。
滅多に感情を表に出さない男が珍しいこともあるものだと、沖田たちは訝ったのだが、それこそ、たった一人の隊士の我儘をきいているわけにはいかない。

結局は、局長命令ということで、瞬はその夜から、氷河と同じ部屋で寝起きすることになったのだった。







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