瞬と氷河が同室で起居することになった、その夜。

真夜中に氷河が目を覚ますと、彼の枕元に、隣りの布団で寝ていたはずの瞬が座っていた。
気配を消していたわけでもないのに、瞬がそうしていることに氷河が気付かずにいたのは、彼に害意がないせいだったろう。

目覚め、目を開けた氷河の唇に、瞬の唇がそっと重ねられる。
驚いてしかるべきこの状況下で、それでも無言無反応な氷河を、瞬は切なげな瞳で見詰めていた。
一目惚れでもされたのでなければ、以前から知っていたのだとしか思えない状況だった。

「俺を知っているのか」
表情もなく尋ねた氷河に、瞬は、身悶えるようにかぶりを左右に小さく振った。

「氷河、僕を忘れたの、本当に」
透き通った涙の雫が、ぽろぽろと瞬の膝に零れ落ちる。
氷河は、だが、そんな瞬に手を差し延べることはしなかった。

自分が大切なものを失ったことは知っている。
だからこそ、氷河は、ずっと虚無の中にいた。
しかし、氷河は、それを瞬に訴えようとは思わなかった。







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