「ありゃりゃりゃりゃ〜」

瞬を抱いた氷河の姿が障子の向こうに消えると、中庭を挟んだ向かい側の廊下で二人のやりとりを見ていた沖田は、素っ頓狂な声をあげて、頭をぼりぼりと掻いた。
その脇に、ちょうど隊士たちの点呼を終えて、自室に戻ろうとしていた土方が立っていた。

隊士同士の逢引の邪魔もできず、廊下を進むに進めなくなって立ち往生していた土方に、沖田が少々間の抜けた声で尋ねる。
「えーと。あれって、あれですか? んーと、男同士の駆け落ち?」

「どうやら、あの二人、元からの知りあいだったようだな」
「あれをただの“知り合い”って言いますか。歳さん、さすがですね」
「……瞬が追ってきたのは氷河だったわけか」

沖田と土方は、やっと二人の事情がわかったようで、その実、全くわかっていなかった。
武田観柳斎の例もあるように、男子同士の色事は、決して人に隠さなければならないようなものではない。
薩摩などには、まるでそれを助長するかのような兵児二才へこにせの制度があるほどなのである。

「困ったなぁ。近藤さんに、あのふたりを連れて来るように言われて来たんだけど」
「今、あの部屋の中に入っていく度胸は、近藤さんにもあるまい。後にしろ」

そう言って踵を返した土方の後を、沖田は慌てて追いかけた。
さすがに今夜は、笑い声も出なかった。







[次頁]