マンション帰ると、氷河は、フォルダーから数枚の紙の束を取り出して、リビングのテーブルの上に放り投げた。
生徒の図書館利用の状況を調査すると言って、図書館員にプリントアウトさせた、今日の分の図書館出入館記録である。

「閉館間際だった上、試験が終わったばかりだったんで、あの時図書館にいた生徒は思ったより少ない。時間帯を絞れば、容疑者はかなり狭められるだろう」
氷河の口から出た『容疑者』という単語に、瞬の瞳が曇る。
氷河は、それには気付かぬ振りをして、先を続けた。

「明日、当たりをつけた奴等を締めあげて、犯人を特定してやる」
「生徒を調べるの」
「仕方ないだろう」
「でも……」

瞬の唇から、その先の言葉は出てこない。
すべての原因が自分の過失だということと、氷河は、過失を犯した同居人のためにそんなことをしようとしてくれているのだという事実が、瞬から言葉を奪っていた。

「内密に探し当てて、敵がちゃんと反省の色を見せたら、何も起きなかったことにもできる。生徒の将来に支障が出るようなことにはしない」
「うん……」

瞬が、空返事だけを返してくる。
暗鬱な気持ちを隠しきれず、長椅子に身を沈めるように座っている瞬の上から気掛かりを取り除くために、氷河は瞬の肩に手を伸ばした。
ほとんど力が失われているような瞬の身体は、その手に引かれるまま、氷河の胸にしなだれかかってくる。

氷河は、瞬の首筋に顔を埋め、瞬を引き寄せた手で、今度は彼が身に着けているものを取り除こうとしたのだが、それは瞬の白い指に遮られてしまった。
「ごめん、そんな気分になれない……」

瞬の拒絶を、素直に受け止められたと言えば、それは嘘になる。
しかし、氷河は、瞬に無理強いはしなかった。
瞬の衣服を脱がせようとしていた手を再び瞬の肩の上に戻し、力づけるように抱き寄せる。
「大丈夫、万事丸く収まるようにしてやる。おまえは、大船に乗ったつもりでいろ」

この状況を、瞬にも犯人の生徒にも遺恨や後腐れの残らないように解決しない限り、瞬の“そんな気分”を取り戻すことはできそうにない。
ならば、氷河がすべきことは、この事態を瞬が望むような解決に導くことだけだった。






【next】