翌日は、何事もなく過ぎていった。
犯人追求について氷河が何も言ってこないところをみると、それは全く進展していないか、もしくは氷河は水面下で探りを入れているところなのだろう。
氷河が何も言ってこないことに、瞬は実は心のどこかで安堵していた。

瞬は、CD−ROMは取り戻したかったが、それを盗み出した生徒のことは知らずにいたかったのである。
臆病であり、無責任だとも思う。
しかし、それが、瞬の偽らざる真情だった。

不安な1日を過ごした、更に翌日の放課後。
瞬は、氷河に、西校舎の3階にある生徒指導室に来るようにとメールで連絡を受け、指示された場所に向かった。
足取りは、あまり軽快なものではなかった。
氷河の呼び出しは、つまり、この盗難事件に何らかの進展が見られたということなのだから。

生徒指導室は、他の教室の4分の1ほどの広さしかない。
そこに呼び出しを受けた大抵の生徒がそうであるように、瞬もまた、不安を胸に潜ませて、その部屋のドアを開けた。

氷河と、3年Aクラス・出席番号11番の男子生徒がそこにいた。
そして、部屋の中央にある面談用の丸テーブルの上に、瞬のなくしたCD−ROMが。

「橋本君……」
両の肩を落として椅子に腰掛けている教え子の消沈した様子を見て、瞬は即座に状況を理解した。

氷河が、瞬には察することのできない部分の補足説明をする。
「目星をつけた生徒たちの持ち物検査をしてやった。持っていることがバレるとマズい代物なだけに、持ち歩いている可能性が高いだろうと思ってな」
「そんなの、生徒の人権を無視した行為だよ!」
「鞄や机の中を見たわけじゃない。生徒たちの持ち物に、これ見よがしに磁石を近付けてやっただけだ。当然、こいつは、データが狂うのを嫌がってよけようとする。で、呼び出しをかけて、吐かせた」
「乱暴すぎるよ! 濡れ衣だったらどうするの!」

瞬の非難は的外れだった。
それが濡れ衣ではなかったから、ここにこうして問題のCD−ROMがあるのである。
瞬は、語調を弱くして言い直した。
「濡れ衣じゃなかったとしても──生徒を傷付けるよ……」

言い直しても、瞬の主張は的を外れたままである。
氷河は的確に狙うべき的だけを狙い、その中心を射抜いたのだから。






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