どう言えば、彼の傷心が癒されるのかと必死に思いを巡らせ、しかし、氷河の時には見付け出すことができた答えを見付け出すことができずに、瞬は口をつぐんだ。 代わりに氷河が、口を開く。 「自分が世界一不幸な人間でいいじゃないか」 「氷河……!」 「こいつが、そういう人間でいたいなら、そういう人間にしておいてやればいい。それがこのガキの望みなんだし」 「氷河……」 そんなふうでいてはいけないのだということを教えてやるのが教師の務めではないかと言いかけた瞬を無視して、氷河が言葉を続ける。 「だがな」 どうやら氷河は、彼なりの言葉とやり方で、教師の務めを全うしようとしていた──らしい。 「あのくそ重たい飛行機が高く飛べるのは、すさまじいばかりの空気抵抗があるからだぞ」 「…………」 「おまえ、秀才なんだろう。意味がわかるか」 重い鉄の塊りを高みに運んでくれる優しい風など、この世には存在しないのだ。 それは、そして、大きな抵抗がなければ空を飛ぶことはできない。 どうせなら その抵抗を利用しろと、氷河は、彼の不幸で不運な教え子に告げた。 直截的でない氷河の苦言の意味は、幸か不幸か、彼に通じたようだった。 「あんたなんかに慰めてもらいたくない」 氷河の告げたそれが、慰めであり、励ましであり、忠告でもあるということが、彼にとっては屈辱以外の何物でもなかったらしい。 彼の口調は、慰められて逆に、反発の度合いを強めた。 氷河にはそんな反発など、春の微風ほどの力も感じられないものだったが。 否、むしろそれは、春の微風のように心地良いものだった。 「俺には、自ら望んで不幸になろうとしている馬鹿な生徒を、見下し蔑み哀れんでやる権利がある。なにしろ俺は、世界一幸運な男だからな」 氷河がそう言いながら、わざとらしく瞬の肩に手を置く。 言葉も所作も表情も、およそ教師のそれではない。 氷河を睨みつけた不幸な生徒は、しかし、すぐにまた項垂れてしまった。 これほど幸運で幸福な男に妬みや反抗心を向けても、それらのものはただ空回りをすることしかできない。 半端に理解力があるせいで、彼は彼自身の抵抗の空しさを早々に悟らざるを得なかったのである。 |