瞬は、まだ氷河に背を向けて、窓の下を──校舎から校門に続く庭を、眺めていた。

「1、2、3、4、5。何てことのないただの数字だよね。絶対評定だろうが相対評定だろうが、ほんとは、僕、嫌なんだ。ほんの一部分とはいえ、そんな味気ない数字で生徒たちの生きた時間を評価するのは」

「成績が上がれば褒めてくれる誰かがいて、下がれば叱咤激励してくれる誰かがいる──それを確認できるだけでもいいじゃないか」
実際、それをバネにして数学教師になった男もいるのだ。

「うん……」
瞬は、その数学教師に背を向けたままで、微かに頷いた。

窓の外には、学舎での今日の活動を終えて下校していく生徒たちの姿がある。
三々五々に連れだってふざけ合っている者、一人で家路を急いでいる者、その様子は様々だった。
彼等もまた、大小様々な、それぞれの空気抵抗を受けているのだろう──と思う。
瞬の目には、生徒たちの姿のある校庭が、高い空に飛び立とうとしている小さな飛行機たちの離陸滑走路に見えた。

彼等の中には、目的地をどこに定めるべきなのかを迷っている生徒もいるのだろう。
そして、そこに何が待っているのかを、おそらく大部分の生徒たちはまだ知らないのだ。
瞬自身が高校生だった時、自分がどこに行こうとしているのかを知らずにいたように。

そして、教師になった瞬は、生徒たちが飛び立った後には、ただその航路を見守っていることしかできない。
それが教師というものなのだから。






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