「ヒョウガ、そんなふざけたこと言ってないで、もう少し深刻に──」 シュンがヒョウガを それから、彼は、その青い瞳でじっとシュンの顔を凝視した。 「なに? どうして僕を見るの」 「経験者だろう」 「……ヒョウガは馬鹿じゃないし、手玉に取られてもくれないし──」 突然何を言い出したのかと、呆れるような顔になったシュンに、ヒョウガが更に言葉を続ける。 「俺はおまえのせいで、すっかり平和主義者にさせられてしまったぞ。──俺の前の男はどうだったんだ」 「そんなの、いません」 「ほんとか?」 「ヒョウガも馬鹿の仲間入り? レウカスの城にいた頃は、兄さんの目が厳しくて、僕は毎日、語学と剣とお作法の勉強に明け暮れてたの!」 ヒョウガにそんな馬鹿げた疑いを持たれるのには耐えられない。 シュンは、本気でヒョウガの疑念を否定した。 ヒョウガが、すぐに納得する。 「ああ、あいつがいた。ふん。さすがにおまえの兄は利口だな。今度の遠征軍にレウカスは兵の一兵、船の1艘も出していない」 対してヒョウガの故国ケファレエアは、相当数の兵と船とをこの戦に中に投入していた。 アガメムノンの口車に乗せられたのだろう。 今更故国の国政に口出しはできなかったが、ヒョウガにはそれが苦々しくてならなかった。 「おまえに会うまでは、俺も戦に夢中だった。国を広げ、功名心を満たそうとし──それをおまえが変えてしまったんだ。責任はとってもらわなければ、な」 言うなり、ヒョウガがシュンの中に押し入ってくる。 最初の交合の名残りの残るシュンの身体に、突然の挿入は、だが、さほどの衝撃ではなかった。 しかし、その後のヒョウガの動きが激しい。 「ああっ!」 力を加減する様子のないヒョウガのその所作に、シュンは大きな声をあげてしまった。 それでも、ヒョウガは、乱暴な抜き差しをやめない。 これは激しいのではなく、荒々しいのだ──とシュンが気付くまでに、さほどの時間はかからなかった。 その訳に、シュンが思い至るまでにも。 「ヒョ……ガ、本当は、闘いたいの……?」 プティアのアキレス、イタケのオデュッセウス、サラミスの大アイアス、アルゴスのディオメデス──この戦には、既に名の知れたギリシャの英雄豪傑たちが、更なる名誉を求めて参戦している。 ヒョウガが彼等と闘ってみたいと思っても、それは不思議なことではない。 トロイの城の内に身を置く今のヒョウガになら、それも可能である。 そして、ヒョウガは、自分の力にふさわしいだけの自負心を持っているのだ。 まるでシュンの身体を引き裂くことが目的ででもあるかのように、ヒョウガがシュンの肩を押さえつけて、その奥にまで彼自身を捩じ込んでくる。 掠れた悲鳴をあげたシュンを、繋がったままの状態で、ヒョウガはきつく抱きしめた。 「俺のいちばんの敵は、いつもおまえだ。こうして、おまえと身体を交えている時に、どんな豪傑と対峙している時より緊張する。勝つか負けるかの真剣勝負だな」 「僕はヒョウガに勝ったことなんて……ああっ!」 「俺の剣を倒そうとして、こんなに絡みついてくるじゃないか」 「そんなの、戦いって言わな……あっ……あ……ああ……!」 ヒョウガはシュンに口をきかせたくないらしい。 再びシュンの身体を突き上げ始めたヒョウガに、そして、シュンは言葉を奪われてしまった。 「──英雄として不滅の名を残すことと、おまえを不快にしないことのどちらかを選べと言われたら、俺は後者を選ぶぞ」 「──闘う奴等は皆、愚か者だ。こうしている方が、ずっと幸せでいられるのに」 シュンを抱き、貫きながら、まるで自分に言い聞かせるように発せられるヒョウガの言葉を、シュンは薄れていく意識の中で聞いたような気がした。 |