シュンに全てを見透かされていたことを知って、ヒョウガは全身を強張らせた。
彼の脳裏に最初に去来した思いは、『争いを好む野蛮な男として、シュンに嫌悪感を抱かれたくない』というものだった。

すぐにシュンの言葉を否定しかけ、だが、シュンの前で虚言を吐くことの無意味を悟る。
結局ヒョウガは、シュンに、全く別のことを尋ねていた。
「おまえは……どうなんだ。おまえだって、強いはずだ。早くに父母を亡くしたとはいえ、あのレウカス王が、弟のおまえを、その姿の通りに頼りなげに育てたはずがない。俺がおまえに初めて会った時、おまえは甲冑を身にまとっていた」


シュンの故国レウカスとヒョウガの故国ケファレエアは、父祖の時代から、相手国を自国の領土にしようと相争い続けてきた国だった。
その日も、ヒョウガは、侵略目的でレウカスの浜に上陸したのである。
そのヒョウガに、頭領同士の一騎打ちで決着をつけようと提案してきたのが、レウカスの一軍を率いて浜に駆けつけてきたシュンだった。
自分が勝ったら、ケファレエア軍は自国に帰れ、と。
腕に自信のあったヒョウガは、もちろん、その挑戦を受けてたち、二人は闘いを始めた。

闘っているうちに、ヒョウガは気付いたのである。
レウカスの将軍が、敵将に致命傷を与えまいとして、力を抑えていることに。
その事実にプライドを傷付けられたヒョウガは、レウカスの将軍を本気にさせるために、彼自身も、妙に華奢な敵将を見くびるのをやめた。

決着はなかなかつかず、やがてレウカスの将軍は、邪魔だと言って、馬上からかぶとを浜に放り投げた。
ヒョウガは、シュンのその姿に一目惚れし、そして、互いが故国を捨てることになる恋が始まったのである。


「そうだね……。僕は、あのアキレスくらいなら、倒す自信はあるよ」
あっさりと、ギリシャ最大の英雄を倒せると言い切るシュンに、ヒョウガは、瞬時 呆れてしまったのである。
しかし、それがはったりではないことに、ヒョウガはすぐに思い至った。
シュンの闘い方は、アキレスやヒョウガのように、力や勢いで押す戦法ではない。
戦い方が全く違うのだ。
ヒョウガでさえ、シュンに勝てるという絶対の自信はなかった。

「なのに、おまえは闘いたいとは思わないのか」
「…………」
シュンは、ヒョウガのその問いに、すぐには答えを返してこなかった。






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