ところが。
いったいどうしたことでしょう。
夢に向かって雪の上を駆けていたシュンは、ふいに彼の気配を見失ってしまったのです。
彼の気配を感じとることができなくなってしまったのです。

シュンは急に不安になりました。
そんなに速く駆けてきたつもりはなかったのに、随分気を遣って駆けてきたつもりだったのに、彼はシュンを見失ってしまったのでしょうか。
それとも、彼は、彼の羊たちの命を狙う残虐なオオカミを仕留めることを諦めてしまったのでしょうか。

シュンは絶望に似た胸騒ぎに急き立てられて、これまで駆けてきた雪の中を急いで後戻りし始めました。

そして、シュンは見付けたのです。
白い森の中ほどに、ぽっかりと開いた大地の裂け目。
それは、この北の国では、樹木のあまりない場所で時折見られるものでした。
森の大地に滲みこんだ水が、凍ったり溶けたりして膨張と収縮を繰り返しているうちに、時々地面にそんな裂け目を作ることがあるのです。
数日続いていた吹雪が、その裂け目を雪で覆い隠してしまっていたのでしょう。

裂け目の向こう側とこちら側に、シュンの足跡が残っていました。
シュンは痩せ細っていたので、裂け目の表面を覆っていた雪がその重みに耐えられたのか、あるいは、シュンの野生の勘がその裂け目の上を跳躍させたのか、それはわかりません。
けれど、シュンの足跡を頼りに危険なオオカミを追っていた青年が、その大地の裂け目に飲み込まれてしまったことだけは確かでした。

その大地の裂け目の深さは2メートルもないくらい。
普通なら、容易に這い上がれるほどの深さなのですが、どうやらシュンを追っていた青年は、その穴に落ちた際に足を挫くか、骨を折るかしてしまったようでした。
彼は、雪の絨毯が敷かれた穴の底に倒れて、時折低い呻き声を漏らしていました。

シュンの命を奪うために持ってきてくれたはずの彼の猟銃は、大地の裂け目を見おろしているシュンの足元にあって、それは半分雪に埋もれていました。






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