彼は、シュンの行動に、当然のことながら、ひどく驚いたようでした。 不思議に思ったようでした。 なにしろ相手は、残忍な牙と爪を持つオオカミです。 羊を狙っていたからには飢えているはず。 その爪を突き立てられ、その牙に肉を食い千切られることを覚悟して、彼は、彼の命を奪うであろう灰色のオオカミを睨みつけていたのです。 なのに──。 飢えのために凶暴になっているはずのオオカミが彼に与えてくれたものは、受傷の痛苦ではなく、絶命の苦悶でもなく、思いがけないほどに優しい感触を持った温もりでした。 大地の裂け目に、ミルクの色をした月の光が射し込みます。 月明かりは、シュンの残忍に光る牙や鋭い爪を、はっきりと彼の瞳に映し出しました。 そして、シュンの悲しげな瞳も。 やわらかい月光の中で見ても、シュンの爪は不気味に鋭く尖っていました。 シュンの牙は、不吉に白く輝いていました。 けれど、瞳だけは──シュンの瞳だけは──、悲しいほど優しく、悲しいほど孤独で、悲しいほどに温かだったのです。 月の光の中で一瞬、彼とシュンの視線が絡み合います。 その瞬間に、月と雪の魔法が彼の上におりてきました。 人間とオオカミは生きる術が違う。 だから、姿も違う。 ただそれだけのこと。 それだけのことだと、雪と月とが彼に教えてくれたのです。 金髪の青年の青い瞳に、シュンの本当の姿が映し出されます。 それは、怯えた目をした可愛らしい少年でした。 春に咲く淡い色の花、暖かくやわらかい太陽の光にも見えました。 彼は、シュンの痩せ細った灰色の身体に手を伸ばします。 彼の手が触れるのは、灰色の長い毛で覆われた獣の手足ではなく、悲しい目をした人間の少年の、華奢で滑らかな白い腕でした。 |