彼の目と心に作用した不思議な魔法は、いったいどういう魔法だったのでしょう。
シュンとその青年は、北の国の白く厳しい夜を、寄り添い、抱き合いながら、過ごしました。

「俺は、ヒョウガというんだ。おまえは?」
「くぅん……」
シュンは、彼に自分の名を知らせることさえできません。
代わりに、シュンは、ありったけの憧れと悲しみと親愛の情を込めた眼差しを、ヒョウガに向けました。

その瞳を見たヒョウガは意外そうな顔をして、それから、不思議そうな口調で呟きました──シュンの灰色の背中を撫でながら。
「おまえ、ちっともオオカミらしくない目をしているな……。それともオオカミは、本当はみんな、こんなふうに悲しそうな目をしているものなのか?」
「……」

シュンには、それはわかりませんでした。
シュンには、仲間や家族はいませんでしたから。
シュンが物心ついた時には既に、この白い森にシュンの同類はただの一頭もいなかったのです。

寂しい目で、シュンはヒョウガを見詰め、見上げました。
シュンの瞳を見詰め返すヒョウガの瞳も、やはり寂しい目をしていました。






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