「確か、昨日の喧嘩の原因は──」
「目玉焼きにはソースか醤油か、だよ」
「そうだった」

氷河と瞬の喧嘩は今日だけのことではない。
昨日も二人は激しい舌戦を繰り広げていた。

「意外に氷河の方が醤油派だったな」
「それこそ好き好き、どっちでもいいことじゃんか、なぁ」
二人の喧嘩にうんざりしたていで、星矢が紫龍にぼやく。

星矢のぼやき声は、だが、少々ボリュームが大きすぎたようだった。
どっちつかずが大嫌いなアンドロメダ座の聖闘士が仲間のぼやきを聞き咎め、星矢に突っかかってくる。
「なに言ってるの! 目玉焼きにはソースでしょ! そもそも目玉焼きって洋食なんだから!」

「うへ〜」
余計な口出しをするのではなかったと、星矢は自らの軽率を悔やんだのだが、彼にまわってきたお鉢は、幸い、すぐに氷河が引き取ってくれた。

「まだそんなことを言ってるのか! 瞬、おまえには日本人としての誇りというものがないのか!」
「あるよ! 僕、目玉焼きはお箸で食べるもの」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないっ!」

頭から湯気を噴出させて瞬との熱いバトルを繰り広げる今の氷河の姿を見たら、今は亡き彼の師匠は、更に世をはかなみたくなったことだろう。
今の氷河の辞書には、『クール』の文字は絶対に載っていないはずだった。

瞬が海と言えば、氷河は山と言う。
瞬がソースと言えば、氷河は醤油と言う。
たとえ毎日目玉焼きにソースをかけて食していても、氷河は醤油と言うのである。

まるで瞬への反対意見を言うことが、我と我が身の存在理由だとでも言うかのように、彼は瞬に熱く反論し続けるのだった。






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