ところが。 星矢が決死の覚悟で向かった瞬の部屋に、あいにく部屋の主は不在だった。 「この暑いのに、瞬はどこかに出掛けたのか?」 「さっき面談した時には、そんなこと言ってなかったぜー」 怪訝そうに呟く紫龍に、星矢が首を横に振って答える。 三時のおやつにはまだ少しばかり早い時刻、そして夏の一日のうちで最も暑い時刻。 しかも今日の日本列島は、特に用がないのであれば、誰も好んでクーラーの効いた屋内から外に出ようとは思わないほどの猛暑に見舞われていた。 無論、アテナの聖闘士が、熱中症などを恐れて外出を躊躇することなどあるはずもないが、瞬はもともとアウトドアタイプの人間ではない。 おそらく邸内のどこかにいるはずだと考えて、星矢と紫龍は瞬の捜索にとりかかることにした。 そして、瞬の部屋を出た彼等が、城戸邸の地下にあるプールにでも行ってみるかと、廊下を歩き始めた時。 瞬の部屋の隣室から──つまりは氷河の部屋から──ただごととは思えない“音”が漏れ聞こえてきたのである。 「んっ……ん……あ、あ……」 それは、瞬の呻き声だった。 まるで さるぐつわを咬まされて、窒息しかけてでもいるような。 途端に、星矢と紫龍は、さっと青ざめてしまったのである。 顔を合わせるたびに喧嘩をし、いつも 本来ならば、口喧嘩などより、二つの拳を用いた闘いこそが本業である、二人のアテナの聖闘士。 彼等が、言葉だけでの闘いでは気が済まなくなり、宿敵に向かって拳を向ける日の到来を、星矢と紫龍は、実は、かなり以前から懸念していた。 夏の娯楽、目玉焼きにバナナ。 取るに足りない小さな争いが生む些細な腹立ちや憎しみも、積もり積もれば山となる。 その山が山の形を保ちきれなくなって瓦解する時、いったいどんな惨劇が起こるのかは、推して知るべしというものだった。 「氷河っ、何をしてるんだっ! いくら仲が悪くても、していいことと悪いことが……!」 大慌てに慌てた星矢と紫龍が、ノックもせずに氷河の部屋に飛び込んだ時、 「あっ……あっ……いい……いい、氷河……もっと……ああ……いい……氷河、もっと……!」 氷河と瞬は、ベッドの上で熱い闘いの真っ最中だった。 |